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殉教カテリナ車輪

1997年春。地方の美術館で事務をつとめる井村は、気分転換のつもりで、たまたま手近にあったカイヨワの『幻想のさなかに』を手に取った。すると、背後からその様子を見ていたミステリ好きの学芸員・矢部が、驚愕の表情を浮かべている。そして、こう呟いた──「謎は、解けた」。

一息ついてから、矢部は井村にある手記を手渡した。14年前に夭逝した東条寺桂という地方画家が残したものを、矢部がワープロで清書したのだという。そこには、桂が佐野美香という画学生と知り合って絵を描き始めた頃から、桂の義父・豪徳二と佐野美香が同時に変死を遂げた、不可解な密室殺人事件の顛末までが記されていた。同時に二つの密室殺人が起こり、犯人は一人。そして凶器も一つ。この奇妙な事件について、記録者の桂はどうやら自分なりの解釈で真相に近づいてたようだ。

また、この手記を見つける過程で、矢部は桂が残した「殉教」と「車輪」という2作の大作絵画にも出会っていた。矢部は、これらの絵を図像学的に解釈することで、桂が悟っていた密室殺人の真相も明らかになると考えたのだが……。

第9回鮎川哲也賞受賞作。本格としか呼びようのない端正な本格で、まさに鮎川賞がお似合いの作品。凝った造本や意味深なタイトルもまた、読書意欲をそそる。

そんな本書の最大の特徴は、帯にも明記されている通り、図像学(イコノグラフィー)をミステリに持ち込んだことだろう。しかも、俎上に載せられるのは作者自身の筆になる(作品中では登場人物・東条寺桂による)2枚の絵画である。目新しく興味深い仕掛けを、仕込みの段階から作者自身が練り上げているのだから、おもしろくならないわけがない。

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